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広角レンズに関する考察 [SIGMA 8-16mm F4.5-5.6 DC]

 超広角レンズであるシグマの8-16mmを使ってみると、標準レンズや望遠レンズでは気付かなかったことに色々と気付かされます。そのほとんどが射影とパースペクティブに起因していると思われます。射影とは、3次元空間にある被写体を2次元平面である写真の画面に投影することです。パースペクティブとは遠近感のことで、近くの物を大きく、遠くの物を小さく写す効果です。一般にレンズの焦点距離が短くなるほどパースペクティブは強くなります。望遠レンズ(長焦点距離)と広角レンズ(短焦点距離)で同じ立方体の箱を同じ大きさに写るように撮影したときの見え方を模式的に示したのが図1です。図を単純化するためにピンホールカメラの場合で考えていますが、普通の(中心射影方式の)レンズを用いたカメラでも基本は同じだと思います(ただし等距離射影方式などの魚眼レンズはこの通りではない)。広角レンズの場合は遠い方の辺がより短く写るので遠近感が強調されることになります。

perspective.GIF

図1  広角レンズと望遠レンズのパースペクティブの違い

 パースペクティブは射影の影響も受けます。例えば写真1は広角レンズ(焦点距離8mm)で撮影したもので、手前の草や地面は大きく引き伸ばされたように写っていますが、少し離れたところの犬や木は非常に小さく写っていることがわかります。そのため奥行きが強調されて写っています。しかしこの効果は時には違和感として感じられることがあります。写真2ではコンクリートの柱は普通に真っ直ぐに立っているように見えますが、同じものを少し上向きにアオリをつけて撮ると写真3のようになります。写真3では柱の上部が細くなっているようにも見えますし、向こう側に傾いて立っているようにも見えて不自然です。写真4では建物を斜めからレンズを上向きにして撮っているので奥行き方向と上下方向に強くパースペクティブが生じてしまい、まるで建物が歪んでいるかのようです。しかしこれは射影の影響によるもので、画像が歪んでいる訳ではありません。それはこの後に詳しく述べたいと思います。

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写真1  近くの物はより大きく、遠くの物はより小さく写っている

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写真2  柱は真っ直ぐに立っている

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写真3  柱は向こう側に倒れているようにも見える

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写真4  奥行きと上下方向のパースペクティブ

 

 それではどうしてこのようなパースペクティブが生じるのか考えてみることにしましょう。先ほどから何度も述べていますが、これには射影が関係しています。図2に被写体と撮像の関係(すなわち射影)を書いてみました。

projection_s.GIF

図2  被写体の位置と撮像の関係

この図は立方体の箱を様々な位置に置いたときに写真にはどう写るかを概念的に示しています。aの位置に置いた箱は写真ではAのように写ります。一方、写真では近くにある物や上向きにアオリを付けた時に画面の下にある物(写真3の場合は柱の根元)はeの位置にある箱に相当しますから、写真上ではEのようにA(写真3の柱の中ほどに相当)より大きく伸びたように写ります。これは3次元空間の物体を2次元平面のフィルムや撮像素子に射影するために起こる現象です。超広角レンズでこの現象が顕著になる理由は、画角が狭い標準レンズや望遠レンズではa, c, dの位置にあるような物体しか写せなかったのですが、広角レンズではb, eの位置の物体まで写せるので、明らかな伸びを認識できてしまうからです。言い換えれば、標準レンズでも同じことが起こっていたはずですが、差が小さいために気付かなかっただけなのです。もう少し違った観点から考えると、標準レンズ(画角40~50度)で撮影した写真を20~30cmの距離で鑑賞すると、写真の両端を見込む角度はちょうど50度前後になるので、撮影時と鑑賞時の射影が一致して違和感がありません。それに対して焦点距離8mmのレンズとAPS-Cサイズの撮像素子では画角が114.5度にもなるので、写真が鼻先に着くくらいまで近づけて見ないと射影が一致しません。それが違和感を感じさせる理由です。ちなみに、実際に写真を鼻先に近づけて見ると画像は歪みなく写っていることがわかります。余談ですが、撮像面が平面ではなく、図2の破線のような曲面だとしたら、等距離にある被写体a, d, eはA, D', E'のように同じ大きさに写ります。射影による周辺部の画像の伸びは、丸い地球をメルカトル図法によって2次元平面の地図にしたときに、北極や南極に近い国の面積ほど実際よりも大きく見えることと似ています。

 それでは、レンズあるいはカメラの前面と平行な面上にある被写体a, b, cはどう写るでしょうか。画面の中心から離れた位置にある被写体ほど(bやc)、被写体を見込む角が小さくなり、それと同時に撮像面の伸びが大きくなります(BやC)。結果として両者が相殺し、AもBもCも全部同じ大きさで写ります。これはa, b, cのそれぞれの場合でレンズの前後にできる三角形が相似形であることからも説明できますね。これが写真2で柱が真っ直ぐに見える理由です。つまり、建物などの縦線を真っ直ぐに撮りたいときには、カメラ(レンズ)を水平に構えれば良いのです。正方形のタイルが方眼紙のマスのように貼られた垂直な壁をカメラを水平に構えて撮れば、超広角レンズを使ってもタイルは方眼紙状に写ります。従って画像には歪みはないことになります。少し上向きにアオリを付けて撮ると、途端に上すぼみな方眼になります。これは歪みではなく射影によるパースペクティブです。

 ここまでの考察を基に、広角レンズを使う上での注意点をまとめたいと思います。
(1)建物などの縦の線を垂直に写したいときには建物に対して正対し、レンズを水平に構える
(2)そのとき構図を変えるにはレンズをアオるのではなく、カメラを上下左右に並行移動させる
(3)逆に高さ、遠近感、躍動感などを強調したいときにはレンズを上下左右にアオってみる
(4)画面の周辺部は画像の伸びが生じるので人物や規則正しいパターンは中心部に配置する

とは言っても上記の(1)ばかりを気にしていると画面の中央に地平線が来る写真ばかりになってしまいますので、細かいことは忘れて非日常の面白い構図を楽しむくらいの方が良いのかも知れません。私もこれから色々な撮り方を試してみようと思います。

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写真5  同一平面上にあるものは正対して撮ると歪まない

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写真6  奥行き方向はパースペクティブが強調される。さらに、画面中心から離れるに従って射影による伸びが顕著になる。


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コメント 2

slowhanded

見事なまでの考察お疲れさまでした。^^
パースペクティブを論理的に語るとそういうことですな。
ラストはそのあたりをうまく使っていると思いまする。

本文にもありますように広角特有のパースを嫌う方も
おりますが、逆手にとって楽しむくらいの余裕が欲しい
ですなぁ。(* ̄  ̄)b
by slowhanded (2011-02-24 22:11) 

ZZA700

slowさん
長文におつきあいいただき、ありがとうございました。
SIG8-16を使いながらあれこれ考えていたことを
書き始めたら止まらなくなってしまいました。
超広角レンズは使い方次第で面白い写真が撮れるような気がします。
by ZZA700 (2011-02-25 01:31)