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D級アンプの製作 [audio]

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 オーディオ用のアンプには動作原理の違いにより、A級、B級、AB級、D級などの分類があります。以前製作して現在もメインで使用しているアンプはA級アンプに分類される物でした。(下記参照)
 ・A級アンプ製作中
 ・A級アンプ完成
 ・A級アンプ改良
一方、近年増えて来たD級アンプにも興味があり、どのような音がするのか聴いてみたくなりました。そこで試しにTRIPATH社の1チップD級ドライバIC(TA2020-020)を使ってD級アンプを作ってみることにしました。


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音質に定評のあるTRIPATH社のTA2020というD級アンプIC。ちなみに今はもうTRIPATH社は存在しない。

 D級アンプとは、オーディオ信号をパルス変調し、そのパルスでスイッチング素子をオン/オフして電力増幅するアンプの総称です。0と1のスイッチングパルスを発生することからデジタルアンプと呼ばれることもあります(アナログ量をデジタル量に変換(A/D変換)する訳ではなく、単にパルス変調するだけなので、個人的にはデジタルアンプという呼称には少々違和感を感じます)。D級アンプは他の方式に比べて電力効率が良く、ほとんど発熱しない特長があります。

 D級アンプに入力されたオーディオ信号は、PWM(パルス幅変調)やPDM(パルス密度変調)などにより変調されてスイッチングパルスになります。図1に最も一般的な三角波とコンパレータを用いたPWM変調の例を示します(出典:マキシム アプリケーションノート3977)。三角波よりも入力信号の方が小さければ0、大きければ1とすることにより信号の大きさをパルス幅に変調できることがわかります。TA2020も同様の方法を用いていると考えられます。


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図1 三角波とコンパレータによるPWM変調

こうして得たパルス信号で電源のオン/オフをスイッチングしてスピーカを駆動するのがD級アンプの原理です。図1で、正弦波状の入力信号と矩形波状の出力信号は似ても似つかないと思われるかも知れませんが、スピーカを駆動する出力信号Voを積分すると入力信号と同じ波形が得られます。別の見方をすると、VoをLPF(Low Pass Filter)に通してパルスのキャリア成分を除去すると音声信号が得られる、と言うこともできます。そんな訳で、D級アンプの出力には必ずLPF(積分器もLPFの一種)が付いています。しかしここで疑問に思うのは、PWMのキャリア周波数は1MHz程度と非常に高いので※1、スピーカの振動板も人間の鼓膜も追従できずに自然にLPFがかかった状態ですから、回路にLPFがあってもなくても聞こえ方は同じはずではないかと言うことです。もしかしたら、D級アンプの出力段に付けるLPFはむしろ不要輻射を防ぐためだと考えた方が良いのかも知れません。(※1 図1は原理を示すための図なので、細部が実際とは異なります。実際には音声信号よりも充分に高い周波数の三角波を使用して振幅方向の分解能を向上させたり、出力にDC電圧が生じないようにBTL接続にしたりします。)

 話を元に戻すと、TA2020というICを使って、手軽にD級アンプを作ることができました。回路は基本的にTRIPATH社のデータシート通りです。唯一違う所は、アナログ回路の電源(8番ピン)を、IC内部で作られる5V(30番ピン)を使うのではなく、トランスと3端子レギュレータで作った外部電源から供給しているという点です。このように、より電流容量のある安定した電源を使うことで低音の音質が向上すると多くの先達の方たちが述べています。もちろんメインの12V電源もACアダプタではなく、トランスから作った電源を使いました。また、出力段のLPFに使用するインダクタはオーディオ用の太線を巻いた物(東光のDASM1620)を使いました。コンデンサはデフォルトでWIMAのMKS2を選択しましたが、後に色々と交換して音質をチューニングできるように基板側はソケットピンにしてあります。


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フェライトケースに入ったオーディオ用インダクタを使用した


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コンデンサはデフォルトでWIMAのMKS2を使用。交換できるよう基板側はソケットピンにしてある。

基板の製作が終わり、ケースに組み込んだら恐る恐る電源スイッチをオンにします。とりあえず異常はないようなので、負荷として4Ωのスピーカを接続し、無音状態での出力端子の電圧をオシロスコープで見てみました。平均的には0Vが出力されており、スピーカを損傷する惧れのあるDC電圧は出ていないことが確認できました。ただし、輝線の太さが異様に太く、時間軸と電圧軸を拡大して見ると、他の方式のアンプでは考えられないくらいの盛大なノイズが乗っていました。図2に無音時の左右チャンネルの出力波形を示します。約0.2Vp-pの1MHz弱のノイズが見られます。これは前述のPWMキャリアがLPFで除去しきれずに漏れ出たもので、D級アンプ特有の現象です。もちろん周波数が高いために人間の耳にはノイズとして聞こえることはありません。音声信号を入れてみたところ、スピーカから音が出てきて一安心。しばらく聴いてみましたが、ノイズも歪みも感じられませんでした。


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図2 無音時の出力波形。LPFで除去しきれないPWMキャリアが漏れ出ている。

 正常に動作しているようなので、お気に入りのスピーカ(ビクター SX-V1)に接続して音楽を聴いてみます。第一印象は、ノイズ波形からのイメージとは正反対の「クリアな音」でした。シンバルやトライアングルの高音が歪み感なく澄んで聞こえ、金属の質感が良く伝わって来ます。音像の定位にも優れており、楽器それぞれが分離してはっきりと聞こえてきます。一方で、低音は充分に出てはいるのですが、すっきりし過ぎてやや物足りない感じがしました。また、強いて言えば響きや余韻に欠け、音場感は今一歩という印象です。ボーカルの艶や深みのようなものには乏しい感じでした。とは言うものの、1チップICでここまでの音質が得られるのならば満足度は高いのではないでしょうか。このICのメインターゲットであったPC、TV、カーオーディオ、パチンコ台※2あたりに使用するには充分すぎる性能だと思います。クリアですっきりした音質が好みという方にはお薦めできるアンプです。今回はWIMAのコンデンサで統一しましたが、色々な銘柄を組み合わせることで好みの方向へチューニングして行くことはある程度可能ではないかと思います。(※2 音が良いと評判の格安中華アンプは廃パチンコ台から回収したTA2020を使用しているという噂です)


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上の小さい方が今回作ったD級アンプ、下は以前作ったA級アンプ

 近年流行の兆しを見せているD級アンプですが、実はその歴史は案外古く、1977年にソニーから世界で初めて実用化されています。私はちょうどその頃にオーディオに夢中になり始めていて、そのTA-N88という非常に薄型でクールなデザインの、それでいて160W +160Wと高出力なパワーアンプを鮮明に覚えています。その当時はD級アンプという言葉もなく、私自身もデジタル伝送とかパルス電源とかの意味も全く理解できなかったために、このアンプの技術的意義は知る由もなかったのですが、他のアンプとはどこかが違うということだけは感じていました。今ならD級アンプであるが故にこの印象的な薄型デザインが実現できたことや、不要輻射を漏らさないために密閉度の高い高級そうなアルミのシールドケースに入っていることが良く理解できます。当時の日本のメーカが新しい技術に果敢にチャレンジして画期的な商品を世に送り出していたことを誇らしく思います。


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大切に保管してあった1977~78年当時のカタログを引っ張り出してみた

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コメント 4

ナビパ

若い頃にオーディオはハマりましたが今はさっぱりです。結婚して置く場所がなくなったのが原因なんですが^^;
手作りは味わい深いですね。^^b
by ナビパ (2017-05-08 06:47) 

ZZA700

ナビパさん
昔のコンポは大きくて重いから、処分の対象になりがちですよね。
30cmウーハーの3wayスピーカーなんて何処に置く?ですよね^^;
でも昔の物は良い音がしていたんですよね〜〜。
今の物で同等の音質を得るには何百万円かかるんだろうって思います。
by ZZA700 (2017-05-08 20:53) 

slowhanded

ZZA700さんの自作力はすばらしいですなぁ。^^

ただでさえ狭い部屋にデスクトップPCやらカメラの
防湿庫等で場所をとっておりますのでお手軽DTMで
済ませておりますので。。。(;・∀・)
by slowhanded (2017-05-10 20:38) 

ZZA700

slowさん
いえいえ、自作派の諸先輩方と比べれば、まだまだひよっこです^^;
今はデスクトップでも良い音を楽しめる製品がたくさんありますよね。
そのような用途にこそD級アンプがマッチしていると思います^^
by ZZA700 (2017-05-11 08:14) 

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